せきれい物語 新しい登場人物登場!
おととし、北の国からこの川越に渡ってきたとき、下界に大きな白いキューブが見えた。「何かな?」と思ったけど、すぐ忘れてしまった。
去年来た時にも、「何だろうな?」と思ったけど、新河岸川の鯉君や、氷川神社の鳩さんたちに挨拶したり、ねぐらを整えたりしているうちに、忘れてしまった。
年を越し、桜の季節も終わり、やれやれやっと静かになるぞと思っていたら、相変わらず人波が、氷川橋を渡って行く。花見客も終わったはずなのに、はてなと、人の行く手を見ると、みなあのキューブ型の建物に入っていく。そうそう、あのキューブだ。いったい何だろうな。
飛んでいって屋根にとまり、下をのぞいた。キレイな水をたたえた池が、ぐるりを取り巻いている。誘惑にたえきれず、池に入って泳いでみた。気持ちいいぞぉー。ふと見るとカラス君が、ぴょんぴょんと横っ飛びステップを踏みながらやってきた。挨拶をすると、頭をツンとそらして顎を上げた。きっと返事をしてくれたんだろう。あれ、せきれい君もきた。
「やあ、鴨君。こんちは。その水、気持ちいいだろう。地下水をくみ上げているんだよ。もう少しすると、ヤゴやオタマジャクシが出てくるよ。君、そいつら好き?え、水ゴケしか食べない?そっか、ベジタリアンなんだね。じゃあさ、ここって美術館なんだけど、そのうち、ここんちの庭に、ゆすらうめとか、ジューンベリーとか、グミとか、やまももが成るよ」と、親切に教えてくれる。
「やあ、カラスくん、こんちは。今日はなにを漁ってきたんだい?またソーセージかい?」今度はカラス君に向き直って話しかけている。カラス君は、知らん顔をしてソッポを向いている。でも目は笑ってるぞ。友だちなのかな。
「ここんとこ、お客さんが多いからね。君、ギャアギャア啼いて、美術館のお姉さんたちを困らせちゃだめだよ」 カラス君は、くるりと背を向けて、向こうへ行ってしまう。せきれい君は、無視されても、ぜ~んぜん気を悪くする様子もない。追いかけて行って話しかける。
「こないだなんかさ、屋根にとまって、アホー、アホー ってやっただろう。ああいうの、やめなよ。迷惑だよ」 カラス君、今度はいやぁな顔をしている。
「それからさぁ...」
ああ、飛んで行ってしまった。 「アホー」 振り返って、ニヤリと笑った。池に残され、せきれい君はしょんぼりしている。
僕もそろそろ帰ろう。帰って、この愉快な隣人たちのことを、妻に話してやろう。by鴨